京都市内で古い一戸建てを所有されている方の中には、「この家、どうしよう」と悩まれている方も多いのではないでしょうか。
築年数が経過し、現代の生活スタイルには合わない間取り、メンテナンスの手間、そして「古い」というイメージから、売却を考えても「本当に売れるのか」と不安を感じることもあるでしょう。
しかし、もしあなたの家が「京町家」に該当するなら、話は大きく変わってきます。京町家は、単なる「古い家」ではなく、京都の歴史と文化を体現する貴重な文化的資産として、国内外から高い評価と需要を集めています。本記事では、あなたの家が京町家かどうかを見分ける方法と、売却時に知っておくべき重要なポイントを解説します。
「京町家」とは何か?
京町家という言葉は、昭和40年代の民家ブームの際に生まれた造語です。京都市が制定した「京都市京町家の保全及び継承に関する条例」では、京町家を以下のように定義しています。
建築基準法が施行された昭和25年(1950年)以前に建築された木造建築物で、伝統的な構造及び都市生活の中から生み出された形態又は意匠を有するもの
つまり、京町家とは、単に古いだけではなく、京都の都市生活の中で育まれてきた独特の構造や意匠を持つ、伝統的な木造住宅を指します。平安時代の中期にその起源を持ち、今日の建築様式が確立したのは江戸時代中期といわれています。
京町家は、間口が狭く奥行きが深い「うなぎの寝床」と呼ばれる形状、格子戸、虫籠窓(むしこまど)、通り庭、坪庭といった特徴的な意匠を持ち、京都の景観を形成する重要な要素となっています。
あなたの家が「京町家」かどうかを見分ける7つのチェックリスト
「うちの家は古いけど、京町家なのかどうか分からない」という方のために、京町家の特徴をチェックリストにまとめました。以下の項目に複数当てはまる場合、あなたの家は京町家である可能性が高いです。
1. 建築年:1950年(昭和25年)以前に建てられた
京町家の定義として、最も重要なのが建築年です。建築基準法が施行された1950年以前に建てられた木造建築物であることが、京町家の第一条件です。
建築年が不明な場合は、法務局で閉鎖登記簿(有料)を取得すると、建築年が記載されている場合があります。また、固定資産税の課税明細書にも築年数が記載されていることがあるので、確認してみましょう。
2. 構造:伝統的な木造軸組工法
京町家は、柱と梁で建物を支える「木造軸組工法」で建てられています。現代の住宅のように、コンクリートの基礎の上に建物が載っているのではなく、「一つ石」や「葛石」と呼ばれる石の上に直接構造部が置かれているのが特徴です。
床下を覗いてみて、コンクリートの基礎がなく、石の上に柱が載っている場合は、伝統的な木造軸組工法の可能性が高いです。
3. 間取り:「うなぎの寝床」と呼ばれる細長い形状
京町家の最も特徴的な間取りが、間口が狭く奥行きが深い「うなぎの寝床」です。これは、江戸時代の税制(間口の広さに応じて税金が課された)や、都市部の高密度な土地利用の結果として生まれた形状です。
敷地が細長く、玄関から奥へと続く通路状の空間(通り庭)がある場合は、京町家の可能性が高いです。
4. 外観の意匠:格子戸、虫籠窓、通り庇など
京町家には、以下のような特徴的な外観の意匠が見られます。
・格子戸・出格子:通りに面した窓や戸に、縦や横の格子が設けられている
・虫籠窓(むしこまど):2階の外壁に設けられた、土塗格子を並べた小さな窓
・通り庇(とおりびさし):建物の正面に設置された庇で、雨宿りや休憩の場として使われた
・土壁:外壁や内壁に、土を塗り込めた壁がある
・瓦屋根:日本瓦を使った屋根
これらの意匠が複数見られる場合は、京町家の可能性が非常に高いです。
5. 内部の構造:通り庭、火袋、坪庭
京町家の内部には、以下のような特徴的な空間構成が見られます。
・通り庭(とおりにわ):玄関から奥へと続く細長い土間の通路。通風や採光を確保し、店庭(客人の対応や作業場)と走り庭(炊事場)に分かれる
・火袋(ひぶくろ):建物の中央部分に設けられた吹き抜け空間。炊事による熱や煙を逃がし、空気の循環を促進する
・坪庭:建物の中に設けられた小さな庭。採光や通風を確保し、四季の変化を楽しむ
これらの空間が残っている場合は、京町家の典型的な特徴です。
6. 立地:京都市中心部、旧街道沿い、歴史的な町並みの中
京町家は、京都市の中心部や、旧街道沿い、歴史的な町並みの中に多く残っています。具体的には、北区、上京区、中京区、下京区、東山区などのエリアに集中しています。
また、伝統的建造物群保存地区や、景観地区に指定されているエリアにある場合は、京町家である可能性が高いです。
7. 屋根の形状:平入りの屋根
京町家の多くは、建物の出入口が屋根の棟と平行する側(平)にある「平入り」の屋根を持っています。これは、通りに面した側に玄関があり、奥行きが深い「うなぎの寝床」の形状に対応した屋根の形です。
なぜ「京町家」だと分かることが重要なのか?
1. 一般的な「古い家」として売却すると、価値が正しく評価されない
京町家を、一般的な中古住宅として売却しようとすると、「古い」「使いづらい」「メンテナンスが大変」といったマイナス面ばかりが強調され、適正な価格で売れない可能性があります。
一般的な不動産会社の担当者は、京町家の文化的・歴史的価値を理解していないことが多く、築年数や設備の古さだけで査定額を決めてしまうことがあります。その結果、本来の価値よりも大幅に低い価格で売却してしまうリスクがあります。
2. 京町家は希少性が高く、国内外から高い需要がある
京都市の調査によると、京町家の数は年々減少しており、希少性が高まっています。一方で、京町家を求める買主は多岐にわたります。
・投資家:京町家を宿泊施設(ゲストハウス、民泊)やカフェ、レストランに改装して事業を行いたい
・事業者:京都の伝統的な雰囲気を活かした店舗やオフィスとして活用したい
・海外からの購入者:日本の伝統的な住宅に住みたい、または投資対象として購入したい
・京都の文化を愛する個人:京町家の暮らしを体験したい、保全・継承に貢献したい
このように、京町家には一般的な中古住宅とは異なる、特別な需要が存在します。専門知識を持つ不動産会社に相談することで、これらの買主とマッチングし、より高値で売却できる可能性が高まります。
3. 再建築不可物件でも、専門家なら適切な売却方法を提案できる
京町家の多くは、建築基準法上の「再建築不可物件」に該当します。これは、接道義務を満たさない(幅4m以上の道路に2m以上接していない)、または建築基準法上の道路に接していないため、現在の建物を取り壊すと、新たに建物を建てることができない物件を指します。
再建築不可物件は、一般的な不動産会社では扱いにくく、査定額が大幅に下がることがあります。しかし、京町家の専門知識を持つ不動産会社であれば、以下のような適切な売却方法を提案できます。
・リノベーション前提の売却:建物を取り壊さず、リノベーションして活用することを前提に売却
・隣地との統合:隣接する土地と統合することで、接道義務を満たし、再建築可能にする
・専門業者への買取:再建築不可物件を専門に扱う買取業者に売却
京町家を売却する際の3つの注意点
注意点1:京町家に精通した不動産会社を選ぶ
京町家の売却で最も重要なのは、京町家の専門知識を持つ不動産会社を選ぶことです。一般的な不動産会社では、京町家の文化的価値や、再建築不可物件の扱い方、京都市の条例や補助金制度について十分な知識がないことがあります。
京町家に精通した不動産会社を選ぶためのチェックリストは以下の通りです。
京町家専門の不動産会社を選ぶための5つのチェックリスト
1、京町家の売却実績が豊富か:過去に何件の京町家を売却したか、具体的な事例を聞いてみましょう
2、再建築不可物件の扱いに慣れているか:再建築不可物件の売却方法について、具体的な提案ができるか確認しましょう
3、京都市の条例や補助金制度に精通しているか:京町家条例や、京都市の改修補助金制度について説明できるか聞いてみましょう
4、京町家を求める買主とのネットワークがあるか:投資家、事業者、海外からの購入者など、多様な買主とのネットワークを持っているか確認しましょう
5、地域密着型の会社か:京都市内、特に京町家が多いエリアに拠点を持ち、地域の事情に詳しいか確認しましょう
注意点2:売却前に「京町家プロフィール」を取得する
京都市景観・まちづくりセンターでは、京町家の外観に関する評価をまとめた「京町家プロフィール」を整備しています。これは、京町家の特徴や価値を客観的に評価した資料で、売却時に買主に提示することで、物件の価値を正しく伝えることができます。
京町家プロフィールを取得することで、以下のメリットがあります。
・買主に対して、物件が正式に「京町家」として認められていることを証明できる
・物件の特徴や価値を客観的に説明できる
・売却後の保全・継承に対する意識を高めることができる
京町家プロフィールの取得は、公益財団法人京都市景観・まちづくりセンターに問い合わせることで可能です。
注意点3:京都市の条例と補助金制度を理解する
京都市では、京町家の保全・継承を促進するため、様々な条例や補助金制度を設けています。売却前にこれらを理解しておくことで、より有利な条件で売却できる可能性があります。
京町家条例
京都市では、平成29年に「京都市京町家の保全及び継承に関する条例」(京町家条例)を制定しました。この条例では、京町家の所有者に対して、適切な維持・管理を求めるとともに、京町家を取り壊す場合には、事前に市への届出を義務付けています。
売却前に京町家を取り壊すことを検討している場合は、必ず京都市に届出を行い、条例に違反しないよう注意しましょう。
京都市の改修補助金制度
京都市では、京町家の改修や耐震補強に対して、補助金を交付する制度があります。売却前に改修を行うことで、物件の価値を高め、より高値で売却できる可能性があります。
主な補助金制度は以下の通りです。
・指定京町家改修補助金
・個別指定京町家維持修繕補助金
・京町家まちづくりファンド改修助成事業
これらの補助金制度を活用することで、売却前の改修費用を抑えつつ、物件の価値を高めることができます。詳細は、京都市の都市計画局や、京町家に精通した不動産会社に相談しましょう。

京町家の売却方法:「仲介」と「買取」の違い
京町家を売却する方法には、大きく分けて「仲介」と「買取」の2つがあります。それぞれのメリット・デメリットを理解し、ご自身の状況に合った方法を選びましょう。
仲介:時間をかけて高く売りたい方向け
仲介とは、不動産会社に依頼して、買主を探してもらう方法です。不動産ポータルサイトへの掲載や、不動産会社のネットワークを通じて、広く買主を募集します。
メリット:
・市場価格で売却できる可能性が高く、買取よりも高値で売れることが多い
・複数の買主候補の中から、最も良い条件を提示した買主を選べる
・京町家の価値を理解してくれる買主に出会える可能性がある
デメリット:
・売却までに時間がかかる(通常3ヶ月〜6ヶ月、場合によっては1年以上)
・内覧対応や、買主との価格交渉が必要
・売却が成立しない可能性もある
買取:早く確実に現金化したい方向け
買取とは、不動産会社が直接物件を買い取る方法です。買主を探す必要がなく、不動産会社が提示した価格に合意すれば、すぐに売却が成立します。
メリット:
・売却までの期間が短い(通常1週間〜1ヶ月)
・内覧対応や、買主との交渉が不要
・確実に現金化できる
・仲介手数料がかからない
デメリット:
・買取価格は市場価格の70%〜80%程度になることが多い
・不動産会社の査定額に納得できない場合、売却を見送ることになる
どちらを選ぶべきか?
・時間に余裕があり、できるだけ高く売りたい方:仲介がおすすめ
・早く確実に現金化したい方、相続や転居の期限が迫っている方:買取がおすすめ
また、仲介と買取を併用する方法もあります。まずは仲介で売却活動を行い、一定期間内に売却できなかった場合は、買取に切り替えるという方法です。
この方法であれば、高値での売却を目指しつつ、最終的には確実に現金化できます。
京町家売却の成功事例
ここでは、京町家の売却に成功した事例をご紹介します。
事例1:再建築不可物件を専門業者に売却
物件概要:
・所在地:京都市中京区
・築年数:築80年
・間取り:3DK
・敷地面積:60㎡
・状況:再建築不可、接道義務を満たさない
売却の経緯: 所有者のAさんは、相続で京町家を取得しましたが、遠方に住んでおり、管理が難しい状況でした。一般的な不動産会社に相談したところ、「再建築不可なので売却は難しい」と言われ、諦めかけていました。
しかし、京町家専門の不動産会社に相談したところ、「再建築不可物件を専門に扱う買取業者がいる」とのアドバイスを受け、買取業者に売却することができました。買取価格は市場価格の75%程度でしたが、早期に現金化でき、管理の負担から解放されました。
事例2:リノベーション前提で投資家に売却
物件概要:
・所在地:京都市上京区
・築年数:築70年
・間取り:4LDK
・敷地面積:100㎡
・状況:通り庭、坪庭、虫籠窓などの意匠が残る
売却の経緯: 所有者のBさんは、京町家を相続しましたが、自身は現代的なマンションに住んでおり、京町家を活用する予定がありませんでした。京町家専門の不動産会社に相談したところ、「リノベーションして宿泊施設にしたい」という投資家が見つかり、市場価格で売却することができました。
投資家は、京町家の意匠を活かしたリノベーションを行い、現在はゲストハウスとして運営しています。Bさんは、「自分では活用できなかった京町家が、新しい形で生まれ変わり、多くの人に喜ばれていることが嬉しい」と語っています。
まとめ:まずは「京町家かどうか」を確認しよう
京都市内で古い一戸建てを所有されている方は、まず「あなたの家が京町家かどうか」を確認することから始めましょう。本記事で紹介した7つのチェックリストを参考に、ご自身の家の特徴を確認してみてください。
もし、京町家に該当する可能性がある場合は、一般的な不動産会社だけでなく、京町家の専門知識を持つ不動産会社にも相談してみることを強くおすすめします。京町家は、単なる「古い家」ではなく、京都の歴史と文化を体現する貴重な文化的資産です。その価値を正しく理解し、適切な方法で売却することで、より満足のいく結果を得ることができます。
また、売却以外にも、リノベーションして賃貸に出す、事業用として活用する、といった選択肢もあります。京町家の専門家に相談することで、あなたの状況に最適な活用方法が見つかるかもしれません。
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参考文献:
・京都市「京都市京町家の保全及び継承に関する条例」https://kyomachiya.city.kyoto.lg.jp/
・公益財団法人京都市景観・まちづくりセンター「京町家について」https://machi.hitomachi-kyoto.jp/machiya_j/about
・デジタル町家バンク「住む前に知っておきたい、京町家の特徴」https://www.digital-machiya-bank.com/kyomachiya/

